インプラント

不幸にして歯を失ってしまったら、欠損してしまった部分を補うためには、現在の治療技術では、前後に橋渡しできる歯牙が残っている場合は「ブリッジ」、あるいは「入れ歯」などを用いるのが一般的でした。それに第三のオプションとして「インプラント」が入ってきました。

「ブリッジ」、あるいは「入れ歯」にて十分に機能を回復させられる方は沢山いらっしゃいます。バネの見えない入れ歯や、強固に固定された入れ歯など、その方のお口の中にきちんと装着された入れ歯は外すことさえも嫌がられるほどご本人のからだの一部として機能してくれます。ずっと病気がちで歯科の治療に通うこともままならなかった年配のご婦人が来院されました。お口の中は根だけの歯が多数あり、残せる歯は2~3本という状態でした。しかし、しっかりした義歯を入れられたことにより、見違えるほど健康的で明るい表情に変わられました。その方は「この入れ歯はもはや自分の一部です」と笑っておっしゃっていました。生活習慣病の増加とともに、糖尿病の方、また、高血圧などで外科処置のリスクが高い方も増加する傾向にあります。そのような方でも、義歯は無理のない計画が立てられます。問題なく噛めることで全身の状態も改善していく可能性があることを私共は知っています。

  • 金属床義歯

  • コーヌス義歯

  • アタッチメント義歯

しかし、もし患者様が義歯をいれることでコンプレックスを抱えていらっしゃるとしたら、人前で笑うことも躊躇されることがあるとしたら、それがどんなにきれいな義歯でも成功とは言えないでしょう。そのための第三のオプションが「インプラント」なのだと思います。

インプラント治療とは

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失ってしまった自分の歯の替わりに、人工の歯根を顎の骨に埋め込み、その上に人工の歯を作製して噛み合わせを回復する治療です。固定性であるためガタついたりせず、自分の歯のように噛めるようになります。

1990年代の半ば、私がまだ歯学部の学生だった頃、大学ではインプラント治療は亜流の治療であるとの位置づけがされていました。その頃一般的に行われていたインプラントの治療成績は決して満足のいくものではありませんでした。しかし、技術の進歩によりインプラントと骨との結合(Osseointegration)が達成されやすいシリンダータイプインプラントの出現により、インプラント治療は一気に市民権を得ることになりました。しかし、あまりにも急速に広まったために、治療技術への検討、コンセンサス、そして倫理観も置き去りにされてしまったのではないでしょうか?それが、昨今問いただされるような問題をとなっているのだと思います。

ボストンに在住していた頃、プライベートクリニックを見学する機会を得ました。当時のアメリカではインプラント治療の多くは分業化され、口腔外科医がインプラントを埋入し、提携している補綴医や一般医が上部構造を作製するという流れ作業が一般的でした。患者さんは80代の女性から20代の若い男性まで幅広い年齢層に渡っていました。
現在では、アメリカの8割の歯科医院が、何らかの形でインプラント治療に携わっているといわれています。アメリカでは、歯科の医療費は日本での歯科治療費の10倍から20倍ですが、治療により歯を残すことよりも安易にインプラントに置き換えてしまうという傾向にあるようです。

果たして、歯を失ったところをインプラントに置き換えるだけで問題は解決するのでしょうか?人は永久歯を失うと残念ながら二度と生え替わることはありません。一本の歯を失うことはその歯の神経が支配していた脳の領域の機能を失うことです。どんなに歯科医学が発達してもインプラントの周囲に天然歯と同じ歯根膜を再現することは出来ません。一本の歯が持つ感覚器としての機能をインプラントは再現することは出来ないのです。

インプラント治療は人工物を生体の中に置いてくる治療です。どんなに歯科材料が進歩しても、天然の組織の美しさを越えることは出来ません。人が作る物には限界があり、完全である物は一つもありません。日々変化していく生体に応じて変化する柔軟性は持っていないのです。どんなに注意を払って治療を行ったとしても100%の成功率を得ることは不可能です。インプラント治療をお受けになった患者様の中には、年齢を重ねていくうちに予期せぬ病気になられる方もいらっしゃいます。それはインプラントの有無とは関係なく、遺伝的な要因だったり、生活習慣によるものだったりします。加齢により介護が必要になる方もいらっしゃいます。その時インプラントにどう対処していくべきなのか、まだ試行錯誤の状態です。スウェーデンの整形外科医、ブローネマルク医師が1965年に初めてヒトに対してインプラントを応用しました。その患者さんは、最初は下顎、のちに上顎にも適用され、その後、悪性腫瘍によって切除された右側の耳介の代わりになる修復装置を固定するインプラントが埋入され、2006年に逝去されるまでの41年間にわたり、高い生活の質(QOL)を維持されました。現存するインプラントのこれが最長の記録です。この期間に様々なインプラントが開発、改良されました。しかし、この41年という記録以上の経過を持つインプラントはいまだ存在していません。私共医療従事者も、そして治療を受ける患者さんもこの事実から目をそらすことは出来ません。

「ブリッジ」や「入れ歯」の設計によっては、残っている歯牙に負担がかかる場合もあります。特に、残っている歯が弱っている場合には次々と失っていく原因になります。インプラントを入れることによって、残された歯の負担を軽減し、他の歯の寿命を延ばすことが可能になる場合があります。インプラントは残された歯を失わないためにするものであると考えます。残された歯を最大限に機能させるために、インプラント治療が最善である場合もあります。インプラントは決して天然歯と同等の感覚器としては作用しませんが、骨に直接に圧を伝えることで感覚器としての一端を担うことも可能です。「ブリッジ」や「入れ歯」では十分な効果を得ることが出来なかった患者さんにとってインプラントは福音であると思います。

アストラテックインプラント

当院ではアストラテックインプラントを採用しています。世界的な製薬、医療器具メーカーであるアストラゼネカ社のグループ企業、アストラテック社によって開発された生体親和性に優れ、長期的安定して使用できる素材である純チタンを用いた歯科用インプラントです。1985年から開発に取り組み、現在その研究開発力と長期安定性は世界中で高い評価を得ています。

数多くのインプラントメーカーがありますが、インプラントは長期にわたって機能するもの。しかし、長期になればなるほどトラブルが発生する可能性は高くなります。そのために10年後、20年後でもしっかりと対応してくれる可能性の高いメーカーを選ぶべきだと、私は考えます。

安全な手術のために

インプラントを骨の中に埋め込むには手術が必要です。それがインプラントの最大の欠点であると思われます。誰しも痛い思いはしたくないはずです。しかし、歯を失うに至った原因があります。その回復にはインプラントを埋める土台である骨を作るところから始めなくてはならない場合もあります。安全に手術を行うためには十分な計画が必要です。それは時には何度も足をお運び頂くことになるかもしれません。CTを撮影して頂かなくてはならないかもしれません。しかし、安全な計画のために必要となる場合があることをご理解頂きたくお願い致します。

インプラント後のメンテナンス

インプラントで機能回復が完了した後でも定期的なメンテナンスが必要です。患者様と当院のチームとでたどり着いたゴールを出来るだけ長く機能して頂くために、定期的なメンテナンスをお願いしております。インプラントは長い期間お口の中に留まるものです。しかもそれは人工物であることを忘れてはなりません。人工物は変化しませんが、天然のご自分の歯の部分は変化していきます。その変化を早い時期に見極めるために定期的なメンテナンスは欠かせないと考えております。皆様の健康で活動的な生活をサポート出来るよう、私どもは努力していきたいと考えております。